2024 6.12 wed., 6.13 thu., 6.14 fri.
JOE LOVANO "Trio Tapestry" featuring Marilyn Crispell & Carmen Castaldi
artist JOE LOVANO
原田和典のBloggin' BLUE NOTE TOKYO
数えきれないほどの栄誉に輝くテナー・サックスの巨星、ジョー・ロヴァーノが最新ユニット"トリオ・タペストリー"を率いて来日中です。
ジョン・スコフィールド・カルテット、山下洋輔ニューヨーク・トリオへのゲスト参加、マッコイ・タイナーとの共演などで我が国を訪れているロヴァーノですが、自身のプロジェクトによる登場はおそらく2005年、ルイス・ナッシュやジョージ・ムラーツを迎えたスタンダード・ナンバー寄りのライヴ以来かと思われます。世界を飛び回り、演奏はもちろん後進の指導にも定評のある(元ベラ・フレック&フレックトーンズのジェフ・コフィンや、近く来日するメリッサ・アルダナも教え子です)ロヴァーノの、ますます充実した、貫禄と美にあふれるプレイを我が国で楽しめることはジャズ・ファン、テナー・サックス・ファン、インプロヴィゼーション・ファンにとって、快挙以外のなにものでもありません。
トリオ・タペストリーは、ロヴァーノ、マリリン・クリスペル(ピアノ)、カルメン・カスタルディ(ドラムス)で構成されています。クリスペルはアンソニー・ブラクストン、レジー・ワークマン、ゲイリー・ピーコックら数々のミュージシャンと共演を重ねてきた名手で、リーダー作も'80年代前半から定期的に発表。日本では'97年に発表された『Nothing Ever Was, Anyway: Music of Annette Peacock』が話題を集めました。カスタルディはロヴァーノと同じくオハイオ州クリーヴランド→ボストンのバークリー音大という道を進み、バークリーではアラン・ドーソン(トニー・ウィリアムスの師匠)にも師事しています。トリオ・タペストリー以前に発表されたロヴァーノのアルバムでは、2002年リリースの『Viva Caruso』に彼の妙技が刻まれていました。
私が足を運んだ初日ファースト・セットは、トリオ・タペストリーがこれまで発表した3作品、つまり『Trio Tapestry』、『Garden of Expression』、『Our Daily Bread』(すべてECMレーベルからのリリース)からのナンバー+新曲というプログラムでした。音作りはこれまでロヴァーノが率いていたバンド、たとえばエスペランサ・スポルディングが在籍していた"アス・ファイヴ"や、ビ・バップへのオマージュを込めた"ジョー・ロヴァーノ・オクテット"などよりも抽象的ですが、これが実に面白いのです。楽曲のメロディは確かに存在するのですが、そこから先は、まさに無から有を生み出していくがごとし。3人が互いの音に耳を傾け、神経をとぎすませながら、おそらくその日・その時限りのアンサンブルを形成していくところに私は鳥肌もののスリルを覚えました。ロヴァーノのメリハリに富んだ吹奏(ペーター・ブロッツマンも演奏したクラリネット風の管楽器"タロガト"もプレイ)、そこに"同時に複数の音が出せる"ピアノの強みを最大限に生かしているといっていいであろうクリスペルの打鍵が絡み、カスタルディはまるで語っているかのようにドラムの各パーツを鳴らします。伝説の重鎮ポール・モチアンをほうふつとさせるキック(バスドラ)が、殊に見事でした。
ロヴァーノは11歳でテナー・サックスを始めたので、そのキャリアは早60年に達します。ジャック・マクダフやドクター・ロニー・スミスのバンドでジャズ・ファンクに取り組み、ウディ・ハーマン・オーケストラの一員としてスウィングを演奏し、ハンク・ジョーンズと何枚ものバラード・アルバムを発表した彼の現在地は、すこぶる冒険的で魅力的です。"fearless"(恐れしらず)な3人組、トリオ・タペストリーの公演は14日まで続きます。
(原田 2024 6.13)
Photo by Takuo Sato
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【LIVE INFORMATION】
JOE LOVANO "Trio Tapestry"
featuring Marilyn Crispell & Carmen Castaldi
2024 6.12 wed., 6.13 thu., 6.14 fri. ブルーノート東京
coming soon